その日は、いろんなことがなんだかおかしかった。 「ねぇねぇ! ちょっとこっち向いてよ」 「えええ、なに?」 一番最初にきっかけを作ったのはヒナだった。 登校してしばらくして、ふと彼女へと携帯のカメラを向けてきたのだ。 これまでにも友達同士でふざけてお互いを撮りあうようなことはあったものの、それにしても唐突だ。 「えっとね、今度親戚の家に留学生が来るんだよね」 「留学生?」 「そうそう。うちの親戚、そういうの好きなんだよねー」 「そういえば、そんなことを前に言っていたな」 「……言ってたっけ」 「言ってたよ?」 「言ってたね!」 首を傾げて思い返そうとしてみるが、どうにも心当たりがない。 が、彼女以外の三人がそう言っているのだから、きっとそうなのだろう。 何気ないお喋りの中で出てきた情報で、たまたま彼女の記憶には残らなかったのだ。 そう自分を納得させて、彼女は続きを促すことにした。 「それで……、どうしてわたしの写真を撮ることになるの?」 「え? そりゃあんたが元TYBのプリンセスで、現役女子高生だから?」 「……えーっと?」 元TYBのプリンセスであることと、現役女子高生であることと、そして親戚の家に来るという留学生の情報がうまくまとまらない。 眉を寄せて怪訝そうな顔をするしかない彼女に、くつくつと笑いながらハルナが助け船を出してくれた。 「日本に来る留学生ってのは、日本の学校生活に憧れや興味があるんだ」 「そうそう、それで親戚に現役女子高生として学校での日常風景を写真に撮ってきて欲しいって頼まれてるんだよねー」 「なるほど。 ……でも、わたしが元プリンセスなのはそれにどう関係してくるの?」 「それはまあ、ノリというか勢い?」 「ふふ、せっかく身近に有名人がいるんだもんね。 ヒナ、自慢できるね」 「そういうこと! TYBの元プリンセスが友達なんて、すごくない?」 「確かにな。 私達にとっては、いつも一緒にいるお前がたまたまプリンセスに選ばれたって感じでしかないが……。 普通に考えたら、TYBの元プリンセスが友達っていうのは自慢できるな」 「自慢イイネ!」 「そうかなあ」 そんな風に言われると、なんだか少しだけ戸惑ってしまう彼女だ。 TYBのプリンセスに選ばれたのだって、彼女が望んだわけではない。 何か理由があって彼女が選ばれたわけですらないのだ。 全てはただの、運。 だからこそ、TYBのプリンセスだったという理由でもてはやされることには居心地の悪さを感じてしまう。 TYBというお祭りが終わってしまえば、彼女はもうそれまで通りの至って普通の女子高生に過ぎないはずなのだ。 「まあ、そんなわけでさ。 あたしを助けると思って、ちょっと写真撮らせてくれない? 親戚に見せる写真はあとであんたが確認してくれていいからさ」 「うーん……」 「ね、お願い!」 ぱし、と両手を合わせて拝まれてしまう。 (……そこまで言われたら、断れないよね) それに、写真は確認させてくれるとも言っている。 ヘンな写真がヒナからその親戚へと回ってしまう可能性は、限りなく低いだろう。 「ちゃんと送る前にわたしに見せてくれるんだよね?」 「もちろん!」 「それなら……、うん、いいよ」 「ありがとう!」 「よかったな、ヒナ」 「よかったね、ヒナ」 「イイネ!」 というわけで。 その日は日本における一般的な女子高生の生活を、隙を見ては携帯で写真に収めることが繰り返されたのだった。 ☆★☆ 「はい、そのアイシングクッキー持ってにっこり笑って? ほら、ヒナ、シャッターチャンスだよ!」 「あ、こっちの方が美味しそうに出来てるかも」 ――家庭科の調理実習にて。 ☆★☆ 「……午後の体育はだるいねー」 「ねえ、真面目に授業してるところ撮らなくていいの?」 「いーんじゃね? 日常らしいほうがいいっしょ」 「それならいいけど……」 ――体育の授業にて。 ☆★☆ 「あ、悪いがチリトリを持ってきてくれるか?」 「いいよー、今そっちに行くね」 「掃除姿イイネ!」 ――清掃時間にて。 ☆★☆ 彼女が一人で映っているものから、他の友人らを巻き込んだ集合写真まで。 その日の学校での日程が終わる頃には、それぞれの携帯にはそれなりの量の写真がたまっていた。 それらを皆で確認しながら、どの写真をヒナの親戚に送るべきかをわいわいと相談しあう。 「これ可愛くない?」 「えー……、そうかな。 ちょっと変な顔してる気がするよ?」 「そこがいいんだって! なんかいかにも自然体って感じでいいと思うな」 「わたしもそれ可愛いと思うよー」 「私も同感だな」 「そう……?」 「キマリダネ!」 そんなおしゃべりに花を咲かせながら、五人は放課後の教室できゃっきゃと写真を厳選する。 そしてそろそろそれも一段落つきそうというタイミングで――…、彼女の携帯がブブブ、と震えた。 「あ」 受信したメールを開く。 送り主は恋人でもある濱田慎之介だ。 「ハマー、学校終わったみたい」 「あ、もしかして今日デートなの?」 「うん、今日ハマーの誕生日なんだよね」 「それならば早く行ってやれ。 彼のことだから、お前に会えるのを楽しみにしてるんじゃないか?」 「楽しみにしすぎて奇行に走ってるかもしれないね〜」 「やめてよマイ、想像できちゃうから!」 「エキセントリックイイネ!」 少々――…、というかかなりの変人である濱田慎之介という人物の人柄は、TYBを通して彼女の友人らにもすっかりなじんでしまっている。 最初のうちは本当に慎之介で大丈夫なのか、本気で選んだのかと心配されたり呆れられたりもしたものの、最近ではその良さも少しずつわかって貰えてきている……、はずだ。 写真も選び終わったことだし、と彼女はあわてて荷物をまとめる。 「それじゃあ、わたし行くね!」 「ああ、彼によろしくな」 「ハマーくんによろしくね〜」 「よろしく〜」 「ヨロシクイイネ!」 (……?) なんとなく。 本当になんとなく。 彼によろしく、と伝える友人らの間に、楽しげなアイコンタクトがあったような気がしたのは果たして彼女の気のせいだろうか。 少し気になりつつも、慎之介を待たせるわけにもいかない彼女は、そそくさと放課後の教室を後にした。 ☆★☆ 5月23日。 それは、今年度のTYB優勝者濱田慎之介の誕生日である。 いつもならば、ハマギャル達にお願いして盛大に祝ってもらう日である。 慎之介の選んだ過激なセンスの服を着せて。 派手にハマニバルを繰り広げるのだ。 が、今年は違う。 今年の誕生日は特別だ。 何しろ、慎之介には彼女という特別な女の子がいる。 いつも祝ってくれていたハマギャル達が可哀そうだが、今年は彼女と二人きりで過ごしたいのでハマニバルは中止だ。 『今年もハマニバルあるの? 面倒だけどご褒美あるならやってあげてもいいよー』 なんてハマギャル達からきたメールにぽちぽちと返信なんかしていたところで、軽やかな足音が聞こえてきた。 彼女だ。 間違いない。 覗き込んでいた携帯を、メール送信も中途半端にポッケナイナイ。 「ハニーちゃん!」 「わ、ハマー、気づいてたの?」 「おれ様がハニーちゃんの気配に気づかないなんてあるわけないジョナーイ! おれ様、ハニーちゃんが来るのをまだまだかって待ってたんだからネン!」 「結構待たせちゃった? メール貰ってからすぐに来たんだけど……」 「ううん、全然待ってないヨ!」 「……今待ってたって言わなかった?」 「気分的な問題だから問題ナッシン!」 「問題あるのかないのかわからないね」 「むふふふふふふ」 噛みあっているんだか噛みあってないんだかの会話もいつものことだ。 慎之介がつらつらと語る言葉に、ピンポイントで返される彼女のツッコミはいつだって小気味良い。 まさしく相性バッチリだと思う瞬間である。 「えっと今日は一緒にご飯を食べに行くんだよね?」 「おれ様ばっちり予約してあるよ! すっごく雰囲気のいいお店だから、ハニーちゃんも気に入ること間違いナシ! その後はそのままハニーちゃんとハマホテにお泊り……」 「却下です」 「ちぇー」 べきり、とお泊りフラグをへし折られたことに慎之介はがっかりしたように項垂れる。 きっと実際にお泊りなんてことになったら、彼女にどうやって触れたらいいのか、そもそも触れていいものかどうかで錯乱する未来しか見えないわけなのだが、それでも彼女とずっと一緒にいたいという欲はなかなか自制しきれない。 「ほら、がっかりしてないで行こう? お店、予約してくれたんなら時間とかあるんじゃない?」 そっと、小さな手のひらが差し出される。 ハマーのおねだりの九割近くをビシバシと却下する彼女だけれど、こうやって彼女から触れあいを求めてくれることだって少なくはない。 慎之介の過激なおねだりが、彼なりの照れ隠しであることをわかってくれているからだろう。 「……うん、そうだね!」 お泊りをねだるのは平気なのに、こうして彼女の手を握り返す瞬間、慎之介はいつだって口から心臓が飛び出してしまいそうになる。 ドキドキとうるさい鼓動を気にしないようにしながら、差し出された手をそっと握り返す。 華奢で、柔らかい小さな手。 ああ、女の子の手だなあ、と思う。 「ハマー?」 「な、なななな、なんでもないヨン! それじゃあバースデーディナーにレッツラゴゴーン!」 声が、少しだけ上擦る。 気付いただろうに、彼女は小さく唇だけで笑って、頷いてくれた。 TYBの開催中は、手を繋ぐことすら出来なかった。 それに比べると、大いなる進歩だ。 「ほら、こっちだよ!」 「うん!」 二人手を繋いで歩く。 そんな姿は、至って普通のカップルのようにも見えた。 ☆★☆ 慎之介が予約をしていたのだというお店は、彼女が覚悟していたようなとんでもなく豪華なお店、ではなかった。 雰囲気の良い、隠れ家的なカフェだ。 きっともっと時間が遅くなれば、アルコールを提供する洒落たバーにもなるのだろう。 そんな、大人びた雰囲気があるお店だ。 席の一つ一つが、家を模したような屋根のついたパテーションで区切られており、半個室のような作りになっている。 「どうどうどう、ハニーちゃん! 気に入ってくれた?」 「うん、すごく素敵な雰囲気なお店だね。 夜景も綺麗だし、ご飯も美味しかったし……」 「それにハニーちゃんがおれ様のお隣にぴったり寄り添ってくれてるモンね!」 「ふふ、そうだね。 こういう感じの席って、わたし初めてだよ」 「ネットで見かけて、ここしかないってビビって来たんだよ。 おれ様の直感、マジバビィね!」 彼女の隣にぴったり寄り添うように座って、慎之介は非常に満足げだ。 カップル向けの席だという説明が最初にあった通り、慎之介たちが案内された席は通常のように向かい合うタイプではなく、二人並んで座るタイプの席だったのだ。 可愛らしいラブソファに、二人並んで座って、綺麗な夜景を眺めながら美味しい食事が楽しめる。 まさに誕生日の特別なデートにはぴったりだ。 「でも……」 「どうちたの? 何か、気になることでもあった? なんでも言っちゃってよ! おれ様ハニーちゃんのお願いなら何でも聞いちゃう!」 「ううん、そうじゃないの。 せっかくハマーの誕生日なのに、わたしばっかりしてもらっちゃってるような気がして」 「そんなことないよ! おれ様はハニーちゃんといられるだけで嬉しいんだよ! ハニーちゃんが嬉しいな、って思って笑ってくれるだけで、おれ様は幸せなんだ」 「ハマー……」 「えへへ」 はにかむように、慎之介が笑う。 そんな笑顔は本当に嬉しそうで、幸せそうで、彼の言葉が心からのものであることがとてもよくわかる。 (……うう、恥ずかしくなってきちゃうな) 慎之介がそんなにも自分のことを好きでいてくれることが、嬉しいのと同時に恥ずかしい。 そわそわと落ち着かない気持ちになってしまう。 そんな彼女の気持ちを見透かしたように、慎之介がテーブルの片隅に置かれたままだったメニューを手に取った。 「ほら、ハニーちゃん! デザートも頼んじゃおうよ!」 「うん、そうだね! どれも美味しそうで迷っちゃうね……」 慎之介が膝の上に広げた大振りのメニューを、隣から彼女が覗き込む。 また少し二人の距離が近くなる。 そんなささいなことが、慎之介にとっては幸せでたまらない。 だから、だろうか。 つい、口が滑ってしまった。 「でも、ハニーちゃんの作ったクッキーの方が美味しそうだったよ!」 「…………」 ぴたり、と彼女の動きが止まった。 しまった、と思ったときには遅かった。 彼女がにこにことした笑顔のまま、すーっと視線をメニューから慎之介の顔へと持ち上げる。 アレだ。 その顔は。 間違いなく。 ――お小言の前触れだ。 「……どうしてハマーが、わたしの作ったクッキーが美味しそうだったなんて知ってるのかな」 「えーとうーとえーと! べ、べべべ、別におれ様、ハニーちゃんが今日調理実習でクッキーを作ったなんて知らないヨ! たまたま! SO! ハニーちゃんならきっと美味しいクッキーを作るんだろうなって思っただけだヨ!」 「うん、知ってるよね」 じ、と見つめられる。 眉の吊り上った顔も可愛いなあ、とは思うが怒られるのは怖い。 これ以上怒らせてしまう前に、素直に謝るしか……、と口を開きかけたところで。 「……ふう。 もう、それ犯人はヒナ達だね?」 大きく息を吐き出すと同時に、きりっと吊り上っていた彼女の眉が下がった。 仕方ないなあ、と許してくれるときの顔だ。 「ほへ? ハニーちゃん、怒ってないの? いつもおれ様が隠し撮りすると怒るのに」 「隠し撮りは好きになれないけど……。 今回のは別に隠し撮りじゃないし。 それに、ハマーというよりヒナ達がやったことでしょ?」 「うん……。 今日がおれ様の誕生日だから、プレゼントにハニーちゃんのお写真をたくさん送ってくれたんだ」 「……やっぱり」 おかしいとは思っていたのだ。 ヒナの親戚が留学生を引き受けているなんて、聞いたことがない。 自分が覚えていないだけかな、なんて思っていたが、きっと彼女の日常生活写真を撮るための方便に過ぎなかったのだろう。 あらかじめ、四人で打ち合わせしていたに違いない。 そういえば、カップルとして付き合うようになってから、改めて慎之介を彼女たちに紹介したこともあった。 その時に、確かメルアドの交換もしていたはずだ。 (もう、四人とも……) 騙された、と思う気持ちがないわけではない。 だが、不思議と怒る気にはなれなかった。 そうやって慎之介が喜びそうなプレゼントを、彼女の友人であるヒナやマイ、アヤノやハルナがそれぞれ協力して用意してくれたということが、むしろ嬉しいぐらいだ。 それだけ、友人らにも彼女の恋人として慎之介が認められているという風に感じられるのだ。 (……嬉しいな) 慎之介は、変人だ。 TYBの間も、ダークホース扱いされるほどに、一般的に考えれば「ない選択肢」の一つであるように考えられていた。 実際、彼女が慎之介を選ぶと決めたときにも、友人らには祝福するというよりも面白がったり、戸惑うような反応の方が強かった。 その友人たちが、今慎之介の誕生日を祝って、慎之介が一番喜びそうなものを用意してくれていた。 (……それがわたしの写真、っていうあたりがちょっとアレな気もするけど) 細かいことは、気にしないことにしておく。 認めて貰えたことが、応援してくれていることが、嬉しい。 今はそれだけで十分だ。 「ふふ、せっかくだから、バースデーケーキを頼もうか。 ほら、こっちに写真がついてるけど派手で凄そうだよ」 「バビィね!」 彼女が指さしたバースデーケーキは、派手好みの慎之介の趣味にもあったようだ。 即決でケーキを決めてしまって、早速オーダーを済ませた。 ☆★☆ ケーキのオーダーをしてからしばらく。 ふ、っと。 唐突に、元々抑え気味だった店内の照明が落ちた。 そしてそれと同時に、少し離れたところから、バースデーソングを歌う声が近づいてくる。 最初は一人だけだった歌声も、ケーキを持った店員が二人の元へと到着する頃には、状況を察して歌い始めた他の客も混じっての大合唱へと変わっていた。 半個室に区切られた店内、そのあちらこちらから誕生日を祝う歌声がこだまする。 「ハニーちゃん、これ……!」 「ふふ、バースデーケーキをお願いすると、こういう演出もしてくれるんだね。 あ、見て、ハマー! ケーキに花火がついてるよ!」 二人の目の前に、そっとおろされるバースデーケーキには、ロウソクと一緒に小さな花火がぱちぱちと瞬いている。 「さあ、どうぞ! 誕生日の方はタイミングよくロウソクを吹き消してくださいね!」 店員のそんな声と同時に、もう一度最初から繰り返されるバースデーソング。 彼女も、手を叩いてリズムをとりながらそんな合唱に加わる。 『ハッピバースデー、トゥ ユー♪』 合唱の最後、歌い終わると同時に身を乗り出した慎之介がふーっとロウソクを吹き消して……。 「お誕生日おめでとう、ハマー!」 「おめでとうございます!」 誕生日イベントの最後をしめるように、店内に盛大な拍手が満ちた。 あちこちの席から、「おめでとう!」という声が飛んでくる。 こういったお店では、誕生日イベントが珍しくはないのかもしれない。 少しの余韻を残して、店の明かりがつく。 それを確認して、ケーキを運んでくれた店員が立ち去ろうとするが……。 「あの!」 「はい、何でしょう」 それを呼び止めたのは彼女だった。 懐から携帯電話を撮り出し、簡単に操作してからそれを店員へと渡す。 「ケーキを前に、記念写真を撮ってもらってもいいですか?」 「ええ、もちろんです!」 「ほら、ハマー、写真とろう? せっかくのケーキも可愛いし!」 「そうダネダネ!」 二人、ケーキの前で顔を寄せあって、店員の構えた携帯に向かって笑顔を作る。 「あ、そういえば……」 「はい?」 「今日ってキスの日なの、知ってましたか? せっかくなら如何ですか?」 「き、キスの日!?」 「ええ」 携帯を構えた店員は、笑顔だ。 (……えっと) さすがに、人前でキスをするのは恥ずかしい。 けれど、今日はキスの日なのだ。 そして、慎之介の誕生日でもある。 (他の人には見えないし……。 ハマーの誕生日だし……。 キスの日だし……) 免罪符になりうる理由を脳内で数えて。 (……よし) 彼女は決断した。 「お願いします……!」 「ほぎゃ!?」 一方心の準備が出来ていないのは慎之介の方である。 真っ赤になって、ずさっと逃げようとした……、ものの狭いラブソファに逃げ場はない。 「ほら、ハマー!」 「ちょチョチョーット待ってよハニーちゃん! おおおおれ様心の準備ががががが!!!!」 「お願いします……!」 「はーい、撮りますよー!」 がし、と彼女の手が慎之介の胸元をひっつかんで、ぐいと引き寄せる。 もう片手は、そっと涙目で真っ赤になって逃げたさそうな彼の頬へと添えて。 そして勇気を出して、そっと顔を寄せた。 ちゅ。 可愛らしいリップ音と同時に響くシャッター音。 さらに重なる謎の爆発音。 言うまでもなく――…、濱田慎之介が爆発した音である。 というわけでおめでとう、ハマー! 御幸せに、ハマー! 末永く爆発しろ! ☆オマケ★ 「ハマー、これわたしからのプレゼントだよ」 「これは……」 「デジタルフォトフレームなんだ。 盗撮は嫌だけど……、二人でいろんな写真をとって、記念を増やしていけたらなって思って。 自分用のもお揃いで買ったから、一緒に写真を撮っていこうね」 「おおおお揃いの写真、ハニーちゃんのお写真がハニーちゃんと一緒でハニーちゃんのフォトフレームがハニーちゃんで……!!!」 「ハマーしっかり!」 ちゅごぼーん。 「あー……、もう。 ハマーってば喜びすぎだよ。 大丈夫?」 「…………」 「ハマー?」 ゆらり、と慎之介が身を起こす。 それと同時に、がしり、と彼女のウェストにかかる腕。 「えっと……?」 「思い出、増やしてくれんだろ?」 「……え」 「目ェ、閉じろよ」 「ええええええ!?」 なんて後日談があったかどうかは、神のみぞ知る。 END |