「わたしは大丈夫だよ」
「そうですか……?
まったく、はまだくんは、これだからこまるんです。
せんせい、ぼくといっしょにおさんぽなどいかがです?」
「うん、そうだね。でも、わたしは年長クラスの先生だから、悠斗くんとだけ散歩に行くわけにはいかないんだ。
拓海くんやハマー、哲くんも一緒じゃ駄目かな?」
「……む」

幼いながらも、整った顔立ちの眉間に浅く皺が寄る。
しばらく悩むようにして。

「では、ぼくとてをつないでくれるなら、そのさんにんがいっしょでもがまんします」
「ふふ、それじゃあ拓海くんは悠斗くんと、ハマーは拓海くんと、哲くんはハマーと手を繋いでね」
「わかった。はまだ、おれの手を取れ」
「ぶーぶーぶー! おれさまもはにーちゃんとがいい!」
「きみはおとなしく、くじょうくんとてをつないでいればいいんです!」
「ほら、しっかり手をつないでねぇとまいごになっちまうぞ」
「……ふふ」
「どうかしましたか?」
「ううん、いつもと変わらないなあ、と思って」
「いつも?」

不思議そうな顔をする悠斗に、彼女はただ小さく笑う。
今はどちらが正しいのかはわからない。
高校生の彼の記憶が正しいのか。
それとも今目の前にいる小さな彼こそが、正しいのか。

「それじゃあ、行こうか」
「はいっ」

嬉しげにはしゃいだ声と同時、小さな手が彼女の手を握る。
包み込むように握る大きな手ではなく、頼りなく柔らかな小さな手。
きゅ、と優しく握り返して、彼女は彼の歩幅にあわせてゆっくりと歩き出した。


☆★☆


「……って、夢を見たんだけど」
「あいにく現実の僕は、幼稚園などという庶民的な場所には縁がないな」
「だよね……」

お洒落な喫茶店の一席、悠斗は彼女が見たという夢についてをばっさりと斬り捨てた。
幼い自分が、九条拓海や濱田慎之介、諸星哲とともに彼女の生徒だったらしい。
なんという悪夢だ。
そんな悪夢のかけらを振り払うよう、悠斗は紅茶のカップを傾ける。

「僕はどちらかというと貴女の幼い頃に興味がある」
「え?」
「来年の子供の日には、是非それで」
「え、えええ?
是非って言われてもわたしどうしたら……!」

わたわたと混乱したように手を振る彼女にむけて、悠斗は駄目押しのようににっこり、と笑う。
幼い彼女は、きっと愛らしいだろう。

「そうですね……。
僕と貴女の子供は、やはり貴女似の女の子がいい」
「……はい?」

悠斗の言葉に、彼女は混乱もどこかへ行ってしまった、というようにぴたりと動きを止めた。
相変わらずにこにこと笑みながら、悠斗は言葉を続ける。

「僕に似た子、というのは外見上可愛らしくとも、内面的に少々可愛げに欠けると思うんだ」
「自分で言っちゃうんだ、そこ!?」
「なので、貴女と僕の子には、是非貴女に似ていただきたい」
「ちょっと悠斗くん、真面目に何言ってるの!?」
「未来の家族計画だが」
「わあああああっ!!」

真っ赤になった彼女に、涙目で睨まれつつも悠斗は満足げに微笑むばかりだ。
二之宮悠斗。
将来設計までパーフェクトな男である。



おしまい