「歩夢くん、先生みたいだね」
「そうですか?」
「うん、わたしよりも、いい先生になれそう」
「そんなことないですよっ。
むしろ、おれはせんせいのまねをしているだけですからっ」
「そうなんだ?」
「はいっ」

嬉しそうににこにこと笑いながら、歩夢は散らかされたおもちゃを拾っては、おもちゃ箱へと戻していく。
そんな歩夢がふわふわとしたブランケットをたたもうとしているのに気付いて、彼女は手を差し出した。

「てつだってくれるんですか?」
「うん、いいかな?」
「ありがとうございます、たすかりますっ」

渡された端を、きれいに折って二つ重ねる。
大きなブランケットを相手にするのはさすがにてこずるのか、歩夢は少し大変そうだ。

「歩夢くん、ブランケットはわたしがたたもうか?」
「だいじょうぶですっ。
おれ、できますから!」
「わかったよ」

一度床に下ろして、二つに折って。
ててて、と端の方へと移動して、上下の端がきちんと重なるように確認して。
それから、小さな体で両端を持って、ぴんと引っ張る。

「きれいに出来たね」
「えへへ、せんせいにそういってもらえるとうれしいですっ」

そして、揃えた端を持って、ててて、と歩夢は彼女の方へとやってくる。
渡された端と、彼女の持っていた端とをしっかりと重ねた。

「あとは、おれひとりでもできますっ」
「それじゃあお願いしようかな」
「はいっ」

(歩夢くんって、小さくて可愛いな、って思っちゃうけど……。
実はすごく頼りになるんだよね)

てきぱきと伊織を手伝って教室の中を片づけていく歩夢を眺めているうち、自然口元に笑みが浮かぶ。
そんな優しく穏やかな時間は、ゆっくりと流れていくばかりだ。


☆★☆


「……って、夢を見たんだけど」
「ふふ、ちっちゃい桐嶋さん可愛いかったんだろうな」
「うん、すっごく可愛かったよ。
歩夢くんとね、身長も変わらない感じで」
「へえ、いいなあ。
今じゃ桐嶋さん、おれよりずっと大きいから……」
「うんうん、伊織くんを見下ろすなんて滅多にない経験だよね」
「確かにそうかも」

二人、放課後の巣鴨で並んでお茶菓子をつついて、渋めの茶を啜りながらそんな会話を交わす。

「でも、ちょっと残念だなあ」
「何が?」
「ちっちゃい歩夢くんも、すっごく可愛かったから。
もっと抱きしめたりしたかったのになーって」
「あはは」
「歩夢くんとの間に子供が生まれたら、あんな感じなのかな?
そしたら、思う存分ぎゅーって抱きしめちゃおうっと」
「……っ」

おそらく、小さな子供の姿をした彼、なんていう特殊な状況をもっと堪能したい、という意味なのだろうけれど。
そんなことを言われると、さすがに歩夢としても照れてしまう。
歩夢の顔が赤くなったのに気付いて、そこでようやく彼女もまた自分が何を言ったのかに気付いたようだった。
さ、っと頬が朱色に染まる。

「…………」
「…………」

二人、しばし無言でもぐもぐ、とお団子を頬張って。

「でも、おれはなんだかその夢の話を聞いて嬉しくなったよ」
「え?」
「きみが、すごくおれのこと見てるんだなーって」
「どういうこと?」
「きっと、本当におれがちっちゃな子供になってしまっても、きみが夢で見たのと同じ行動をするだろうなって思って」
「他の子の面倒を見て、たくさん先生のお手伝いをしてくれるの?」
「うん、きみが先生ならきっとそうするよ」
「わたしが先生なら?」

理由がピンとこないのか、ぱちくりと瞬いて首をかしげる彼女に、歩夢はにっこりと笑った。

「だって、きみにはただの可愛い子供と思われるだけじゃ終わりたくないから。
だから、たくさん手伝って頼りになるってところも見せたいし。
それに、お手伝いしたらきみの傍にもいられるし」
「……わあ」

そう。
小さくて、可愛らしい外見に騙されてはいけない。
百瀬歩夢。
彼はまさにロールキャベツ男子である。



おしまい