「泣かなくても大丈夫だよ」
「えぐ……っ、えぐえぐ……!」
「でも、わたしがころんでハマーを潰しちゃったら大変でしょう?」
「おれさま、はにーちゃんにつぶされるならほんもうだよ!
さ、ほら! おれさまのプリチーボディをつぶしちゃってヨン!
おもうぞんぶん、すきにしちゃっていいんだからネン!」
「…………」

(可愛いのになあ)

小さな体で、ぴっとりと足元にまとわりついてくる姿は非常に愛らしい。
いつもの、彼女の知る彼とあまり行動パターンは変わっていないような気がするのだが……。
子供だと思えば、許せる。
もしかしたら、日頃の彼の変態チックに感じられる行動も、子供だと思えば大目に見られるものなのかもしれない。

ぷ、に。

そっとその柔らかそうな頬に手をかける。
想像通り、否、想像以上にもちもちと柔らかな感触が指先に伝わってくる。

(すべすべだ……)

さわさわ。
もにもに。

「は、はははっ、はにーちゃんがおれさまにおさわりしまくって……っ!
はぶっ!」
「ハマー!?」
「いつものことだから、ほうっておきましょう」
「はまだのはなぢは、いつものことだ」
「ねかしとけば、いいんじゃねぇかい?」

ハマーは今日も通常運転だ。


☆★☆


「……って、夢を見たんだけど」
「ぶーぶーぶー!」

むっつりと眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに唸る慎之介に、彼女は意外そうに目を丸くした。

「ハマーのことだから、夢の中でもわたしと一緒、って喜んでくれるかなって思ったんだけど……」
「そりゃね! ハニーちゃんがおれ様のことを夢見てくれたことはうれちいよ!?
でも、夢の中のおれ様だけハニーちゃんに触ってもらえるなんてズルズルだよネン!
おれ様のこともナデナデしてくれなきゃ!」
「……ふふ。本当にハマーは変わらないなあ」

少し呆れたように笑って、彼女の手がするりと慎之介に向かって伸ばされる。
華奢な指先が、そっと頬を撫でていく。
以前なら、それで卒倒していたであろう慎之介も、恋人となった今は、ある程度の免疫が出来たらしい。

「どう! どうどう!? おれ様のスーパー柔らかほっぺた!」
「うーん、ぷちハマーの方がやっぱり柔らかいかも」
「ががががーん!!!!」
「でも成長した分、男らしく格好よくなった……」
「おれ様、次までにはハニーちゃんを虜にするスーパー柔らかほっぺになってくるから!!!」
「え」
「そうだよネ! おれ様、今でも十分ぷりちーソフトほっぺたの持ち主だけど!!
現状に満足してるような男じゃ駄目だよネン!!」
「……えーっとなんていうか、わたしとしてはああいう可愛い子がわたしとハマーが結婚したら産まれるのかなー、とかそういう方向で話をしたりしてみたかったんだけど……」
「大丈夫だよハニーちゃん!
おれ様ばっちり修行してくるから!!
待っててネン、ハニーちゃん!!!」
「えええー……」

濱田慎之介。
彼は基本的に人の話を聞かない。
それで損していることに気づくのはいつの日か。



おしまい