チヒロ:
この傘……。
ハマーくんの持ち物にしては普通だなあって思って。
チヒロ:
(きんきらきんでもなければ、
謎の美的センスが爆発してるわけでもないし……)
慎之介:
んー……、そうなんだよネ。
本当ならこんな傘、おれ様のハイセンスな趣味には会わないんだケド。
慎之介:
その傘は、特別な傘なんだよ。
チヒロ:
特別?
普通のビニール傘に見えるけど……。
慎之介:
昔ね、おれ様が雨に降られて困ってるときに、通りすがりの女の子が助けてくれたんだ。
慎之介:
他の人たちは、みんな泣いてるおれ様のことを素通りしていったのに、その子だけが、おれ様を助けてくれた。
慎之介:
その子が、おれ様にこの傘をくれたんだ。
チヒロ:
そうなんだ……。
それで、このビニール傘を大切にしてるんだね。
チヒロ:
それならなおさら、この傘、わたしが使っちゃってもいいの?
慎之介:
うん、いいんだ。
きみだから、使ってほしい。
慎之介:
あの時おれ様はその子にとっても優しくしてもらったのに、びっくりしすぎて名前も聞けなかったんだ。
慎之介:
ううん、名前を聞くどころか、
お礼すら言えなかった。
慎之介:
そんなおれが……、今きみにこうして傘をさしかけてあげられるのが、なんだか嬉しいんだよ
チヒロ:
(ハマー……、すごく穏やかで優しい顔してる)
チヒロ:
(そんな顔で見つめられたら、
……なんだか、ドキドキしてきちゃうな)
チヒロ:
その……、ありがとう。
そんな大事な傘なのに。
慎之介:
どういたしまして。
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